村井喜右衛門4

母屋右
村井家母屋右側から
きえもんコレクション醤油注し
きえもんコレクション醤油注し

(4)沈船引き上げに乗り出す

  紅毛船難船に及び、木鉢浦浜手に引き寄せこれあり、潮多く差し込み、
  過半沈船に相成り、
  特に下積み銅も多くこれあり候、右船体浮き上げまたは銅取り上げ方
  等、便利の手段存じ寄りの者は申し出ずべし。
    10月21日
                         出島 乙名
                         紅毛 通詞

 これは長崎オランダ商館から諸方に張り出したエリザ号引き上げ希望者の募集広告である。長崎奉行の方へも船長から嘆願書が出たから、役人を出張させて取り調べを行い。わざわざ木鉢浦へ警固の仮小屋を建て、多くの役人を日々詰め合わさしているが、何分にも船の長さは23間・幅6間・高さ6間・およそ8000石積の大船で、大砲だけでも36台を備え、底積みの銅は何万斤とも知れぬ重さで、それが1丈3尺の泥海に埋ったのであるから、何とも手段の施しようがない。
 さて新奇を好むは人情の常であるから、長崎の沖でオランダ船が沈んだとの評判は、口から口へ耳から耳へ、たちまち近国までも伝わって、日々見物に来るものは沢山あるが、我こそ沈船を引き上げんと申し出るものは1人もない。

きえもんコレクション西洋浪漫大丸皿
きえもんコレクション西洋浪漫大丸皿
 奉行所でも大いに困って、水練に巧みなるものを呼び出し、銅の取り上げを試みさせたが、何分にも泥海深く、厳寒の時節であって、加えるに船内へ積み込んでいた樟脳が海水に溶けて、近づくものを窒息させるので、魚のような水夫も潜り込むことができない。
 不幸にも二人まで溺死者を出したが、引き上げの計画は、何等の端緒をも見い出し得なかった。その失望落胆の眼前へ提出されたのが、村井喜右衛門の沈没船引き上げ願書である。


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