前原騒動探偵の一札 今まで人に知られなかった 大将と萩の乱の交渉
乃木将軍殉死十五回忌と萩の乱の盟主前原一誠五十周忌のこの秋故人の遺徳と萩の乱の思い出を記念の意味からか、山口県教育博物館に乃木将軍の小倉十四連隊長心得の少佐時代早くも萩の前原党蜂起のことを事前に明察して時の陸軍検閲使井田譲少将へあてた珍しい一書が送られて来た、乃木氏と萩の乱の交渉は今まで人に知られなかった一事実であり、殊に時恰も双方の追憶を新たにする折とて目下博物館に陳列しているが、観者くびすを接している 書中に熊本賊兵とあるのは神風連の騒動を指したもので山口県下動静云々が前原党の蜂起を意味するのであって当時前原党の一人であった将軍の実弟玉木正誼氏の動静等からでも察知されたものと思はれる、更に面白いのはこの書簡の日付、明治九年十月二十六日は恰も前原一誠が一味の奥平謙助、横山俊彦、佐世一清等八十余名を萩の明倫館に集め旗揚の協議を凝らした日である
本年御順廻に付ては夫々準備致罷在候処本月二十五日午前一時頃熊本台下に於て賊兵蜂起同時に諸兵営火起り一時は軍隊も散乱之模様昨夜に至り本台参謀之中久留米迄引揚候様子当隊よりも将校下士を以て偵察旁派出為致福岡分屯第三大隊は直に久留米へ向け出発之儀相命じ候次第管内戦備中の儀に候得者此旨御承知之上御随行佐尉官の中当営迄御差越相成何分之御命を拝し此度不容易之形勢をも陳述致度就ては山口県下動静探偵之為め差遣致し候裁判十二等出仕橋本正名御地に於て御面晤可仕候間大略は御聞取有之度此段申進候也 歩兵十四連隊長心得 九年十月二十六日 陸軍少佐 乃木希典(印) 西部検閲使 陸軍少将 井田譲殿 書中に熊本賊兵のことあるは熊本神風連の騒動を指したるもの、山口県下動静探偵とあるは前原党の蜂起を意味するもので、現に前原党の一人たる玉木正誼は乃木将軍の実弟であるから、将軍は萩地の不穏を逸早く耳にすると共に探偵を発したものと思はれる、特に興味を惹く事は、此書簡が明治九年十月二十六日付であることで、此日は恰も前原一誠が一味の奥平謙輔、玉木正誼、横山俊彦、山田頼太郎、佐世一清等八十餘名を萩明倫館に集め、旗揚の協議を凝らした日である、故に此書簡は乃木将軍の十五年忌と前原党の五十年忌とを回顧するに絶好の資料である |
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