2002.08.30tyugoku山口
天風録
村井喜右衛門
風変わりな船の模型が展示されている。徳山市立中央図書館2階のカウンター横。帆船を多数の小舟が取り巻く。200余年前の沈没船引き揚げ、今風に言うならサルベージの模様を復元したものだ。製作者は長崎県香焼(こうやぎ)町の梅原喜一郎さん、徳山地方郷土史研究会の寄贈とある。
1798(寛政10)年10月、長崎湾でオランダ商船が暴風雨に遭い沈没した。引き揚げという大プロジェクト に挑み、見事に成功させたのが徳山の船頭だった。克明な絵図も収めた「蛮喜和合楽(ばんきわごうらく)」(寛政11年刊)など、偉業 の記録は今に残る。
船頭の名は村井喜右衛門。現在の徳山市櫛ケ浜生まれ。沈没現場に近い香焼島を拠点に干しイワシを扱う回船の仕事をしていたという。地元民もオランダ人も失敗した引き揚げに立ち上がった。
船腹に大綱を巻き、海中に大柱を立て、滑車を使い、150余の小舟で引く。満潮の中、船はゆっくりと浮上。寛政11年2月のことだ。ニュースは広く海外へ。時の老中、松平伊豆守も快挙をたたえた。
香焼町では人形劇などで偉業を伝承。あまり知ら れていなかった徳山でも今年、顕彰の動きが広がっている。櫛ケ浜の地域活性化グループ「華雲塾」は紙芝居を作り、市立中央図書館では足跡をたどる展示会。地元の八千代座歌舞伎も喜右衛門を題材 にした芝居を敬老会で上演する。
夏休みもわずか。図書館の模型から先達の活躍に思いをはせてみては―。二百十日も近い。
村井喜右衛門