水や空
実習船えひめ丸の引き揚げが難航している。作業はオランダのサルベージ会社が当たっているが、「オランダ」と「引き揚げ」で、青山学院大の片桐一男教授著の『開かれた鎖国』(講談社現代新書)を思い出した。 1798(寛政10)年、長崎港口で嵐のため沈没したのがオランダ東インド会社のエリザ号。アメリカからのチャーターで船体は銅鉄巻き、1000トン級、輸出銅を大量に積んでいた。なんとしても引き揚げなければならない。 長崎奉行は請負人を公募。応募したのが防州(山口県)の豪商、村井喜右衛門だった。引き揚げの方法を詳しく紹介できるスペースはないが、泥中に沈み込んでいる船腹にオランダ船から借りたロープを2重に巻く。滑車を仕掛け、沈船を囲んだ150隻の船と数百人がかりで一斉に巻き上げる。 ある程度浮き上がったところで、75隻の船が帆を上げ、出島まで引っ張ってくる。潮の干満、風、南蛮車(滑車)をフルに活用した。江戸時代の知恵と技術の総結集とも言える壮挙に、オランダ人も驚嘆したという。 |
延べ1万3000人が従事した大プロジェクトだったが、喜右衛門は膨大だった費用は負担して、砂糖20俵と14本の酒入りのフラスコだけを受け取った。 えひめ丸の引き揚げも、海底から30mつり上げた状態で浅瀬へ運ぶというから、200年前とあまり変わりはないよう。米中枢同時テロの影響で、さらに遅れるのではと気掛かりだ。 |