都濃郡宰判 風土注進案
 櫛ヶ浜浦 15


都濃郡櫛ケ浜浦地理誌 「15」


都濃郡 櫛ケ浜浦(つづき)

 中野惣左衛門
太閤秀吉公朝鮮御征伐と〆九州名護屋え御出陣の御帰り難風にて破船に及び、惣左衛門が宅に数日御滞留、御船修復仰せ付けられ候時、大嶋山の材木採用仰せ付けられベしとこれ有り候所、左御座候ては地下人迷惑仕り候段申し上げ候処、御尤もに思し召され黒髪山にて採用相成り御船成就御賞成られ、宅地田畠御除仰せ付けられ、加えて御詠歌2首下し置かれ数代持ち伝え候処、先年当所出火の節焼失仕り候由、御詠歌
 周防なる黒髪山の杣木をば櫛ケ浜にて削り捨てけり
 浦伝ふこの嶋山を立てをりは海士がとまやのしほ木なるべし
右只今も惣左衛門と名乗る血脈相続き仕り候、近年殊の外零落仕り、以前持ち伝えの宅地田畠等売り払い、永世苗字の儀も他家え譲り方仕り候事

一、産業の事
 鯛網 鰯網 釣船 その外一切海漁銀高すべて
右海上漁業の儀は年に寄り不同これ有り候へ共およそ3、4年分見秤りをもって相記し申し候、並びに船数20艘これ有り、1艘に付き2人乗り雑用諸仕入れ共に1貫440目位宛、1ケ年分艘別取り揚げ高およそ1貫700目より2貫目位の事
一、海鼠子漁の事
 但し船数10艘、1艘に付き2人乗り、11月より明くる2月まで4ヶ月の間1艘分雑用諸仕入れ480目、10艘合わせて4貫800目位、煎り海鼠干し揚げ高2千500斤位、斤に付き銀2匁4分7厘6毛替え、秤に〆6貫900目位の事に御座候
一、産物の事
 米54石5升6合8才
 麦48石2斗4升1合
 小黍24石1斗2升6勺
 雑穀取り交ぜ
 合わせて126石4斗1升7合9勺
   内
  860石4斗
   但し惣口数1434人分食料引き当て
残り733石9斗8升2合1勺 不足
 右は漁物雑穀に代替え食料の足し仕り候、農人の儀は纔(わずか)にて漁人浦の儀に付き年中飯料差し支え、風雨強く猟漁相成らず候節は甚だ困窮仕り候事、女の儀も木綿織候へ共年中の着料に行き足り申さず、漁人の儀に御座候へば年中の網苧紡ぎ網繕い等に間に合い御座無く候、大根茄子等は行き足り申さず、山野これ無き所にて竹木類一向御座無く、残らず買い立てに仕り候事
一、客人弁財天  1ケ所
 祭月 6月9日
 但し梁行き9尺桁行き2間瓦葺き、市中にこれ有り、御給主様より高3石御除これ有り候事
 社人の儀は徳山御領居守浦古本左仲相頼み執行仕り候事
一、阿弥陀堂  1ケ所市中にこれ有り
 当浦の儀は山伏快照院の外寺院御座無く、旦那寺の儀も久米村または徳山に御座候に付き、年忌等の節は旦那寺申し請け候へ共忌日等にはこの小庵へ参詣仕り候事
一、三宝院宮様袈裟下 修験者 月桂山快照院
  本尊不動明王
  惣瓦梁行き5間桁行き7間勝手瓦葺きの事
 右快照院の儀は寿永2卯年養仙坊九州より役の行者の供奉にて当所に七堂伽藍を建立仕り候由、追々破却に及び只今にても院内と申す所隣村にこれ有り、寺跡にて御座候事
 年始御目見え且つ御作善の節御諷経(経文を声に出して詠む)御焼香仰せ付けられ候、毎年大峰罷り登り候節御銀子頂戴仰せ付けられ候、上々様御武運長久御祈祷仕り、御札守献納仕り候、御給主様より毎年現米5石宛て下され候事
一、村括り
 田数10町7反2畝1歩
 高190石5斗1升8合
  この作り立て
  現米150石8升1合4勺
  但し豊凶年見秤り反別1石4斗出来に〆
   内
  80石9斗8升1合  上納辻
  11石5斗6合4才
   但し御蔵入り御馳走米と〆石に付き3升5合宛召し上げられ候分
 残り49石4斗9升4合3勺6才  作徳米
一、雑穀高の事
 72石3斗6升1合6勺
  但し麦黍大豆小豆蕎麦粟粃(しいな・よく実らない米)大角豆等諸雑穀取り合わせ手取りの分
 49石4斗9升4合3勺6才  作徳米
 合わせて121石8斗5升5合9勺6才
一、人数1434人
 この食料雑穀取り合わせ1522石9斗8合、大人小児共に日別3合食に〆1人分1石6升2合当りに〆
   内
  121石8斗5升5合9勺6才これを引き  作徳手取り分
 残り1401石5升2合4勺  不足
  但し当村の儀は田畠数無く候故食料余分行き足り申さず、猟方徳銀をもって買い立て相凌ぎ申し候事
一、産業の事
 鰯網8張り
 銀60貫目
  但し干し鰯およそ6千俵、俵に付き銀10匁秤に〆右の辻
 銀4貫480目
  煮干し2斗入り560俵、俵に付き銀8匁秤に〆右の辻
 鯛網2張り
 銀2貫600目
  但し前断鰯網8張りの内にて2張り八十八夜頃より端午頃まで鯛網に相用い候事
 釣船20艘
 取り揚げ高 銀38貫目
  但し1艘に付き1貫900目秤に〆右の辻
 海鼠子
 取り揚げ高 銀6貫900目
  但し煎り海鼠干し揚げ高2千500斤、斤に付き銀2匁4分7厘6毛替えに〆、尤も1艘分250斤宛の積りに〆右の辻
 張り海鼠630桁
 代銀1貫886匁
  但し9寸張り海鼠およそ500桁、1桁に付き銀3匁2分、8寸張り海鼠130桁、1桁に付き銀2匁2分宛に〆
 以上113貫866匁
   内
  銀1貫517匁3分3厘8毛  但し諸上納の分
  同68貫800目  但し鯛網鰯網釣船その外一切漁方諸雑用引き当て
  同13貫440目
   但し家数336軒農具その外衣食染め代塩味噌薪その外一切諸雑用、軒別銀40匁秤に〆右の辻
  以上銀83貫757匁3分4厘8毛
 残り銀30貫108匁6分5厘2毛 過ぎ

一、御本陣 一、御茶屋 一、御代官所 一、御番所 一、遠見番所  一、御船倉
一、牢屋  一、一里塚 一、本往還道 一、駅   一、温泉    一、大山
一、御立山 一、地下山 一、合壁山  一、山野  一、寺院境内山 一、狼煙場山
一、牧 一、大河 一、堤池 一、沼 一、嶋 一、職人札商人札馬工郎札の事 一、雜戸
一、在宅御諸士中足軽已下 一、馬 一、古城跡古戦場 一、名所旧跡 一、陵古墓
 右当村には御座無く候事


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